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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)8124号 判決 1988年9月22日

原告 有限会社 美鈴

右代表者取締役 村中寛之

右訴訟代理人弁護士 秋元修二

被告 日本産業株式会社

右代表者代表取締役 小池静雄

右訴訟代理人弁護士 矢島邦茂

主文

一  原告が被告に賃貸している別紙物件目録二記載の土地の賃料は、

1  昭和五七年五月一日から昭和五八年三月三一日までは一か月金七万二〇〇〇円

2  昭和五八年四月一日から昭和六一年五月三一日までは一か月金八万四〇〇〇円

3  昭和六一年六月一日以降は一か月金一二万円であることをそれぞれ確認する。

二  訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に賃貸している別紙物件目録二記載の土地(以下「本件土地」という。)の賃料は、

(一) 昭和五七年五月一日から昭和五八年三月三一日までは一か月一二万六九八二円

(二) 昭和五八年四月一日から昭和六一年五月三一日までは一か月一三万九六八〇円

(三) 昭和六一年六月一日以降は一か月一七万六三六〇円であることをそれぞれ確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、本件土地を賃貸していた(以下「本件賃貸借」という。)ところ、昭和五二年六月三〇日、原告・被告間で裁判上の和解が成立し、本件賃貸借の内容につき次のとおり合意された。

(一) 使用目的 堅固建物所有

(二) 賃料 月額三万六五二〇円

(三) 期間 昭和五二年六月三〇日から昭和一〇七年六月二九日まで(五五年間)

2  本件賃貸借の賃料は、原告・被告間の東京高等裁判所昭和五七年(ネ)第三七七号地代値上請求控訴事件の判決において、昭和五五年六月一日以降月額六万円と定められた。

3  原告は、被告に対し、本件賃貸借の賃料につき次のとおり増額する旨の意思表示をした。

(一) 昭和五七年四月二四日 同年五月一日から月額一二万六九八二円

(二) 昭和五八年三月二八日 同年四月一日から月額一三万九六八〇円

(三) 昭和六一年五月一六日 同年六月一日から月額一七万六三六〇円

4  賃料増額の理由

(一) 昭和五七年度に固定資産税、都市計画税の対象となる土地の価格の評価替えが行われ、そのために固定資産税、都市計画税の税額も引き上げられた。そして、これに伴う課税は、次期評価替えまでの三年間に毎年逓増する形で分けて実施されるので、毎年の税額も増加していくこととなった。

なお、本件土地を含む別紙物件目録一記載の土地(以下「原告所有地」という。)に対する固定資産税の課税対象は、小規模住宅地(二五三・二九平方メートル)と非住宅地(一八五・五一平方メートル)に区分されている(別紙図面の斜線部分が非住宅地で、その他の部分が小規模住宅地である。)。非住宅地の課税標準額は土地の評価額を基準として定められるのに対し、小規模住宅地のそれは土地の評価額を特例によって減額した特例課税標準額を基準として定められている。本件土地は、全て非住宅地に属しており(別紙図面file_2.jpgの部分)、したがって、本件土地に対する固定資産税は小規模住宅地よりも高く課せられることになる。

(二) 諸物価が高騰し、また、本件土地の賃料は、近隣のそれと比較して低廉である。

5  被告は、原告の賃料増額を認めない。

よって、原告は、本件賃貸借の賃料が請求の趣旨記載のとおりに増額されたことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の(一)の事実は明らかに争わない。(二)の事実は否認する。

賃料増額請求をするには、賃貸借契約成立後又は前回の増額請求後相当期間が経過したことが要件であると解すべきであり、本件においては少なくとも三年以上は必要というべきである。したがって、原告が昭和五七年四月二四日及び昭和五八年三月二八日にした各賃料増額請求の意思表示は無効である。

また、原告所有地は小規模住宅地と非住宅地からなっているが、公租公課は一筆の土地として課税されており、本件土地を除いた他の部分の利用状況も本件土地と同じようなものであるから、本件土地の公租公課の負担割合も一筆の土地の地積に対する本件土地の地積に対応したものであってしかるべきである。

3  同5の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし3及び5の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告がした本件増額請求の当否について判断する。

1  被告は、賃料増額請求をするには賃貸借契約成立後又は前回の増額請求後相当期間が経過したことが要件であると解すべきであるとして、原告が昭和五七年四月二四日及び昭和五八年三月二八日にした各賃料増額請求の意思表示は無効である旨主張する。なるほど、一般に、ある程度の期間が経過しなければ、従前の賃料を増額することを相当とするに足りる事情の変更があったものと認めることができない場合が多いとも考えられる。しかし、請求原因4(一)の事実は被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべく、また、固定資産税、都市計画税については、三年毎に土地の価格の評価替えが行われ、東京都内のような地価高騰の地域においては税額が一挙に高額に引き上げられると納税者の負担が重くなるため、三年間に毎年逓増する形で税額の引上げが実施されていることは、当裁判所に顕著であり、《証拠省略》によれば、原告所有地に対する固定資産税、都市計画税は昭和五七年度以降毎年増額されて賦課されていることが認められる。そうすると、賃料増額の意思表示がほぼ一年毎にされたというだけで、当然に右意思表示が無効であると解することはできないというべきであり、他に原告のした前記増額の意思表示が無効であることを認めるべき事情は窺えない。

したがって、被告の右主張は理由がない。

2  そこで、原告が被告に対して昭和五七年四月二四日、昭和五八年三月二八日及び昭和六一年五月一六日にそれぞれした賃料増額請求における相当賃料額について判断する。

(一)  鑑定の結果によれば、本件土地の昭和五七年五月一日の時点における賃料額は一か月七万五〇〇〇円(一平方メートル当たり四九七円)、昭和五八年四月一日の時点におけるそれは一か月九万二〇〇〇円(一平方メートル当たり六一〇円)、昭和六一年六月一日の時点におけるそれは一か月一四万円(一平方メートル当たり九二八円)がそれぞれ相当であるとされている。

ところで、右鑑定は、本件賃貸借における賃料が昭和五五年六月から月額六万円となったこと、公租公課が毎年増額されていること(なお、原告所有地のうち二五三・二九平方メートルが昭和五五年以降地方税法に基づく小規模住宅地の固定資産税の課税標準の特例が適用されているが、本件土地は、非住宅地として右特例の適用がないので、非住宅地として公租公課を算定している。)、消費者物価指数に変動があったことなどを前提として、いわゆる差額配分法、底地利回り法、純賃料割合法及びスライド法によりそれぞれ算定した試算賃料を比較考量し、このうち純賃料割合法を中心としたその他の方法を参考として、前記月額賃料を算定したものであって、右算定方法に特段の不合理な点は窺えない。

もっとも、《証拠省略》によれば、請求原因2のとおり昭和五五年六月一日以降の本件土地の賃料を一か月六万円と定めた東京高等裁判所判決は、固定資産税の算定上本件土地は全て非住宅地として小規模住宅地の課税標準の特例が適用されないが、原告所有地が全体として住宅用地として現実に使用されていることなどを考慮して、全面積の四〇・四パーセントの負担額とするのが相当であるとしていることが認められるところ、その後の継続賃料の増額請求の相当額を判断する本件においても、右の負担割合を基準とするのが相当である(したがって、この点に関する原告及び被告の各主張はいずれも採用しない。)。

また、前記鑑定は、純賃料割合法による純賃料算定の基礎価格として、昭和六一年六月一日の時点における本件土地の更地価格の二割に相当する底地価格一億三二七九万二〇〇〇円を算出し、これを基礎として賃料額を試算しているが、近年の異常とも思える地価の高騰を考慮すると(ちなみに、右鑑定は、昭和五五年六月の時点における本件土地の底地価格を二六五五万八〇〇〇円と算定している。)、これをそのまま継続賃料額算定の基礎価格とするのは相当でないというべきであり、消費者指数の動向等に鑑み、前記底地価格の約半額である六六五〇万円をもって右算定の基礎価格とするのが相当である。

そこで、以上の固定資産税額算定割合、純賃料算定の基礎価格に基づき、それぞれの数額を右鑑定の純賃料割合法の算定数式に当てはめて計算すると、別紙計算書のとおりとなる。そして、この金額を基とし、右鑑定の他の方式により算出された金額を参考にして、原告の増額請求にかかる相当賃料額を判断すると、昭和五七年五月一日以降は一か月七万二〇〇〇円、昭和五八年四月一日以降は一か月八万四〇〇〇円、昭和六一年六月一日以降は一か月一二万円とそれぞれ認定するのが相当である。したがって、右鑑定の結果中右認定に反する部分は採用しない。

(二)  原告は、昭和五七年五月一日の時点における本件土地の相当賃料額は一か月一二万六九八二円、昭和五八年四月一日の時点におけるそれは一か月一三万九六八〇円、昭和六一年六月一日の時点におけるそれは一か月一七万六三六〇円であると主張するが、前記認定を覆して右金額がそれぞれ相当であることを認めるに足りる証拠はない。

(三)  そのほかに前記認定を左右するに足りる証拠はない。

三  以上によれば、原告の請求は、本件土地の賃料が昭和五七年五月一日以降一か月七万二〇〇〇円、昭和五八年四月一日以降一か月八万四〇〇〇円、昭和六一年六月一日以降一か月一二万円であることの確認を求める限度において相当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平手勇治)

<以下省略>

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